ロイター速報:円債先物が予想外の追加緩和で停止措置寸前、誤発注の思惑も

【出典:ロイター2012年 02月 14日 18:28 JST】
[東京 14日 ロイター] 日銀が「実質的なインフレターゲットの導入」(安住淳財務相)を柱とする追加金融緩和に踏み切り、国債市場で先物取引が一時、東京証券取引所が定める停止措置条件を満たすまでに陥った。
しかし、その値動きの裏では、参加者の金利観を反映していない「誤発注」の思惑が取りざたされ、政策転換に伴う投資行動の変化には至っていないのが実態だ。金融・資本市場では日経平均が上昇に転じたほか、円が対ドルで売られたが、「日銀からのバレンタインプレゼントに瞬間的に踊っただけ」(外銀)と冷静な声が多い。
<国債先物が一時1円高>
日銀が13、14日の金融政策決定会合で追加緩和に踏み切ったことを受け、14日午後の国債市場は、東京証券取引所の長期国債先物が一時、前日終値より1円高い143円37銭に急騰した。
東証はTdexプラスへの移行で、昨年11月に相場変動時に取引を15分間停止する「サーキットブレーカー制度」について、その値幅を上下1円ずつに変更していた。
今回、その水準に達し、「すぐに値を戻したため、取引を停止した方が逆に市場の混乱につながりかねず、今回は発動を見送った」(派生商品部)が、マーケットの動揺ぶりは明らか。業者間取引では基金の買い取り対象となる2年物の国債が買われ、新発313回債は0.110%と2010年10月以来1年4カ月ぶりの低水準を付けた。
一方、外国為替市場ではドル/円が78円00銭と、1月25日以来3週間ぶりに節目の水準に上昇。株式市場では、それまで前日終値を下回って推移していた日経平均株価がプラス圏に浮上した。
日銀がこのタイミングで追加緩和に踏み切ったことについて、市場では「事前に観測はあったが、サプライズだった」(三菱UFJモルガンスタンレー証券の長谷川治美ストラテジスト)との受け止めが多い。
みずほインベスターズ証券の落合昂二チーフマーケットエコノミストは「今回の日銀の決定は、表面的には基金による国債買取り増額と、物価安定の『理解』を『目途』に変えて分かりやすくしただけのように見えるが、実際はインフレターゲット導入と、物価目標実現に向けた緩和強化という、これまでとは一線を画す政策転換だったと言える」と指摘する。
そのうえで同氏は「こうした解釈が正しければ、追加の金融緩和も視野に入ってくることになり、国債買い取りのさらなる増額や年限の長期化など、かなり大胆な政策が今後も打ち出される可能性が高い」と話す。
<緩和決定に失望も>
とはいえ、その評価は一様ではない。明治安田生命の小玉祐一チーフエコノミストは「このタイミングでの日銀の追加緩和には意外感がある。ファンダメンタルズが比較的安定しており、円高圧力も以前よりは緩和に向かっている情勢下で、何を基準に日銀が追加緩和を決定したのかがマーケットには分かりづらい」と指摘する。
SMBC日興証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは「景気認識も変えず、金融市場の緊張も幾分和らいでいるとしていることと関係なく追加緩和に踏み切っており、ここにきて政治圧力が強まり、その圧力に屈したという印象は否めない。今後も、際限なく(金融緩和が)進んで行くという印象を与えてしまい、残念」と手厳しい。
市場では、その効果を巡って懐疑的な見方もくすぶる。デフレからの脱却をにらみ鳴り物入りで導入された日銀基金は、その上限金額に満たずに年末の買い入れ期限を迎える可能性があるからだ。
日銀は2010年10月の包括緩和策導入後、追加緩和を決めるたびに買入総額を増額。買入上限を満たすために、日々の公開市場操作(オペ)で、その残高を積み上げているが、1月20日に実施した国庫短期証券を対象にしたオペでは、金融機関側からの応札が通告額に届かず、導入来、初めて「札割れ」の現象が生じている。
今回、日銀は長期国債の買い入れ枠を9兆円から19兆円に増額。白川方明総裁は会合後の記者会見で、基金による長期国債の買い入れについて、月5000億円から1.5兆円に増やすと明言したが、市場では「買い取り措置により残存2年までのイールドが潰れてくれば、その実現が危うくなりかねない」(セントラル短資の金武審祐経営企画部長)との声が根強い。
<水面下で誤発注の思惑>
今回の金融緩和を受けて急騰した国債先物取引では、「処理速度の向上で成り行き注文が踏み上げられ、『誤発注では』とのうわさが飛び交った」(外資系金融機関)。
しかし、取引一巡後は1円高から20銭高付近まで上げ幅を削ったほか、株式相場や為替相場でも落ち着きを取り戻し、「短期的にはプラスの部分もあるが、長続きするものではないのではない」(ソシエテジェネラル証券の久保昌弘グローバルエクイティ部長)との見方が根強いことを浮き彫りにした。
外国為替市場で円安圧力がかかったことに関連し、IGマーケッツ証券の石川順一・為替担当アナリストは「日銀の金融緩和はサプライズだったが、輸出企業の想定為替レートは78円絡みで設定されているほか、きょうのオーダー状況も77円後半にはオファーが並んでおり、多くの投資家は絶好の売り場として構える可能性がある」と指摘。
「米金利の上昇を伴わないドル/円の上昇は長続きしないだろう。ドル/円相場と相関性の高い米2年債利回りは0.30%に達しておらず、仮に78円台に到達しても、そこですぐに売りを仕掛けられて反落しかねない」とみる。

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